酷暑のころ

              なんちゃってファンタジー“鳥籠の少年”続編
 


それでなくとも陽の光の強い地域ではあるが、
夏場の陽光の強さはまた格別で。
ただ、それが例年のことであるからか、
住人らもそんな暑さへとすっかりと馴染んでおり。
それなりの避暑の方法や暮らしようというもの、
しっかと身につけておいで。
冗談抜きに、
暑い寒いへの感覚も多少は鈍って来るというお年寄りも、
だからこその予防法というのを守っての、
水分補給と塩分補給を怠らないため、

 「この猛暑の中でも、倒れる人は殆どいないんだってね。」

大した村だねぇと、
ほんの少しだけ陽に焼けたお顔に爽やかな笑み載せて、
驚きつつも感心して下さったのは。
そんな暑い盛りに、ほとほとと歩いて当地を訪ねていらした、
白魔導師の桜庭さんであり。

 「皆さん、心掛けが違いますもの。」

毎年の習いだから、特に難しいことでもなし、
それを守っておいでなだけですようと。
謙虚な言いようをしながらも、
こちらもそのお顔に隠し切れない笑みの載る、
表向きには“王宮大使”という肩書を名乗りつつ、
実は、ここ王城キングダムの現政権を担う王の、
義理の弟という小さな王子様。
そうまでの大仰なお立場だと、
全く匂わせもしない純朴な少年なところは、
昔から ちいとも変わらない彼ではあるが。
時々こんな風に、
新たに知己となった人々が、
それも…大層華やかな、
若しくは個性豊かなお人が訪のうことが多々あるがため。
その点へと勘ぐられることもあるんじゃあと、
当初は案じて下さった桜庭さんだったりもしたのだが。

 『まあまあ セナちゃんたら、
  どこに行っても可愛がられていたようねぇ。』

その素直な気性をよくよく御存知な里の人々から、
ますますのこと 微笑ましいと見守られておいでならしく。

 『……平和で何よりだよねぇ。』

うんうん、こうでなくっちゃあねと。
却って妙な納得を生んでいたりもするほどで。
そんな風に、思考や行動に柔軟性のある彼は、
その爽やかに若々しい風貌でありながら、
実は元魔王だったという、とんでもない素性の御仁でもあって。
それなりの経緯を経てのこと、
今はその力を随分と削られながらも、
そうなっても“まあいっか”とした、
そりゃあ愛らしかった和子と二人、
この大陸ならではな、
魔物狩りという旅を続けておいで。
まだまだ魔法やまじないの影響が、
あちこちに色濃く居残る大陸なので、
人々を困らせる魔獣や現象は引きも切らずであり。
そういった旨のSOSを聞きつけては、
修養にて得た…ことになっている術や咒で、
解決に持ってゆくのを生業としていらっしゃり。

 『まあ、全部が全部、
  本当に魔物やまじないのせいってものばっかでも
  ないんだけれどもね。』

 『???』

以前にも、そんな意味深な言いようをしてらした彼らであり、
後々で遅ればせながらセナにも判ったのが、
中には…人間が“魔物の仕業”と偽って引き起こした騒動も、
結構な数、あったりするという困った真相で。
そんなこんなの数々を、
時には得意の咒を繰り出し、
それが不要な騒ぎには、その頼もしい心胆と行動力で、
そりゃあ手際よく片付けて回っているのだとかで。

 「それで、今日はお一人でおいでなのですね。」

時に…金髪の黒魔導師さんの側が、
一方的にへそを曲げてる場合も多々あるが、
それでも概ね仲がいい彼らは。
セナと師弟関係だということもあってか、
この南の里へと来るときは必ず蛭魔が主導で運ぶのに、
今日は珍しくも桜庭だけ。
彼の師匠の威勢のいい声さえ聞こえない訪問であり、
これは珍しいなと思いつつ、
自宅のリビングにて薬草の仕込みをしていた手を止めて、
お相手をしているセナであり。
質素だが可愛らしいエプロンを外しつつ出て来てくれたのへ、

 『ありゃま、進はいないの?』

訊くと、

 『はい、今時分だと川辺の方で、
  水車の具合を確かめたりしておいでで。』

この暑さの盛りに外出は控えた方がと、
いつもお止めするのですが…と、
言葉を濁すところから察するに。
いくら言っても聞き入れてもらえてないんだろうと、
あっさり伺え。
もう一人ほど同居人がいた筈と見回せば、

 『カメちゃんなら、進さんについてってます。』

セナの心配を察知してのことだろなと、
そちらにも気の回るほどの桜庭が、

 「桜庭さんこそ、
  蛭魔さんを放り出してどうされました?」

どんな大事も瑣事も、彼より優先されるはずがない桜庭なのにと、
それこそ、こっちだってよくよく知っており。
テーブルの上へ広げていた、
薬草を摺り潰す乳鉢などを片付けつつの訊きようへ、

 「う〜ん、それなんだけど。」

日頃は色白な印象が強いお人だが、
今は ほんのりと日焼けしておいでなのが少し意外で。
この里のような陽の高い土地に長逗留でもなさっているのかしらと、
そうと思ったセナの手元からひらんと舞ったのが、

 「あ、すいません。」
 「…これって確か、サファイアグラスとか言ったっけね?」

きれいな手の中、
風で逃げないようにと上手に受け止めてくれた
桜庭の言ったその通り、

 「ええ。暑気あたりに効くハーブです。」

小さな葉の裏側が それは鮮やかな青という珍しいもので、
この里でももうあんまり見なくなった、
古い種類の草でと言いかかり、

 「…………あ。///////」
 「…えっとぉ。///////」

何でセナくんまで赤くなるかな。
え、でもでもだって。
うん…あのね、妖一がちょっぴり暑さ負けしててさ。
涼しくする咒とか…。
そういうのって結局自然のものじゃあないし、
それに、

 「ここに魔導師がおりますって、
  魔物へも宣伝してどうすんだって。」
 「あ、そっか。そうなりますよね。」

時として、迂闊にも余計な咒を使っちゃあいけない、
微妙なお仕事をこなしている彼らでもあるがため、
苛酷な環境を和らげるためという種の咒を、
おいそれと軽々しくも使う訳には行かないらしく。

 「それで、ウチへいらした訳ですね。」
 「そういうこと♪」

下手な薬や民間治療とか、頭っから信じない妖一だけど、
セナくんの作ったハーブティーだったら、
素直に飲んでくれるんじゃないかって、と。
そうと思って 即座にやって来る行動力が大したもの。

 「判りましたvv」

急いでお戻りになりたいでしょし、手持ちのをお譲りしますよと、
戸棚のほうへと立ち上がったセナが、
こそりと苦笑していることには気づいていた桜庭も、
まさかまさか、その案じを捧げたい主が、
同じ里の林の中、
進さんに手伝わせ、サファイアグラスを探しておいでとは、
まるきり気がつかなかったらしき、
とある盛夏のほほえましい一景だったそうな。






  〜Fine〜 10.08.20.


  *何だこりゃなお話ですいません。
   今年の夏の異常さについ、
   そういやセナ王子は暑さに強いって設定だったなと思い出しまして。
   関東や東のほうは、少しほどマシになったそうですね。
   いいなぁ、西は相変わらずですよぉ。(とほほん)

めるふぉvvhappaicon.gif

back.gif